どうも、トレーナーの中谷大志です。
前回の記事では痛みに関しての概要を紹介しました。
少し触れたように、痛みは侵害刺激をを受けて以降、電気信号となり神経線維を伝わっていきます。
すなわち、痛みを伝える神経線維があり痛み刺激が伝わっていくルートが存在するということです。
専門用語が多く出てきますが整理しつつ考えれば非常にシンプルだと感じられるはずです。
では、目の前の選手や患者様の痛みを追いかけ、理解できるように学びましょう。
今回は、痛みの発生(出発)地点いわゆるスタートについてみていきます。
●神経線維の上りと下り
→求心性線維(上り)=皮膚や筋肉といった感覚器から脳へと上行する線維
→遠心性線維(下り)=脳や脊髄から抹消に向かって下行する線維
●痛みを伝える神経線維
脛をどこかにぶつけた時、初めにイタ!と感じたあとに、ジーンと重いような痛みがくる2段階の痛みをイメージできる人は多いかと思います。これらは伝導速度の異なる2つの神経線維によって脳に伝わっています。
→1次痛(first pain): 速い神経線維 = fast pain
→2次痛(second pain): 遅い神経線維 = slow pain
太い神経線維は伝導が速く、細い神経線維は伝導が遅い
神経線維は太さと伝導速度によって役割分担・分類されている
- A・B・Cと分類する文字式
- Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ群と分類する数式
→ 皮膚や粘膜の痛み = Aδ線維・C線維
→ 筋肉や腱の痛み = Ⅲ群線維・Ⅳ群線維
ややこしく感じますが、整理すると、神経の太さと伝導速度の文字式と数式の関係は、、、
- Ⅲ群線維 = Aδ線維 (速い)
- Ⅳ群線維 = C線維 (遅い)
つまり、”痛みを伝える神経線維”は、
Aδ線維(Ⅲ群線維) と C線維(Ⅳ群線維)
- 皮膚や内臓からの痛みは文字式でAδ・C線維が担当
- 筋・腱・関節からの痛みはⅢ・Ⅳ群線維が担当
上記、1. 2.は表記が文字式と数式で違うだけで同じことをいっているといえる。
●痛みを感じ取る侵害受容器
前回、記事で侵害刺激という痛みの原因になる刺激をあげました。
その痛みの原因をキャッチする感知器(センサー)がヒトの身体には備わっています=これを”侵害受容器”という。
→ 侵害受容器は神経線維の自由神経終末というところに存在している
→ 痛覚を感じとる自由神経終末は神経線維が特殊な構造を持たずに、裸の状態で露出して痛みを感知している
(=触覚を感じとる終末はマイスネル小体やパチニ小体といった特殊構造をもつ)
侵害受容器の種類は、、、
- 機械的侵害受容器:押す・叩く・引っ張る・刺すなど傷害を与える刺激を感じとる
- 熱侵害受容器:熱を感じとる
- 冷侵害受容器:低温を感じとる
- ポリモーダル侵害受容器:傷害を与える機械的・熱・化学刺激のいずれもを感じとる
これらの侵害受容器の活性化(活動電位が発生すること)により痛みの伝導がスタートします。
→まず痛み刺激により膜電位が上昇し、閾値を超えると起動電位が発生する
→起動電位の発生によりナトリウムチャネルというNa+を通す穴が開き細胞内に大量のNa+が流入する
→閾値を超えると活動電位が発生し脊髄に向かって痛みの神経線維が上行する=痛みが伝わっていく
●活動電位発生
正常時、細胞外にはNa+が多く細胞内に入り、細胞内にはK+が多く細胞外にでる仕組みになっている。
K+の細胞外への流出はNa+の流入より多いため、細胞内は-60〜70mVといった電位差を保っている。
”痛い”といった刺激により、、、
- Na+チャネルが開きNa+やCa2+が細胞内に流入増加
- K+チャネルが閉じK+が細胞内に溜まる
この2つの反応により、細胞内外の電位差が負の状態から正の状態へと縮まり膜電位が上昇する=脱分極が起きる
つまり、痛み刺激は膜電位を上昇させる。
この膜電位が、、、
- 1回の脱分極で閾値に達する
- 小さい脱分極を同時に繰り返し積み重なり閾値に達する(加重現象)
といったときに活動電位が発生する=膜電位が上昇しても閾値に達していないときは発生しない
痛みの伝導をスタートに例えるなら、膜電位の上昇が『ヨーイ』活動電位発生が『ドン』となる
このような反応が自由神経終末で行われています。
裏を返せば膜電位の上昇を抑えることができれば、痛みを抑えることができると考えられます。
膜電位を下げるには細胞内に、、、
- K+の流出を上げる
- Na+の流入を下げる
- Cl-を入れる(Cl-は外から入ったときに膜電位低下作用を発揮する)
という対策が鎮痛方法であると言える。
→ 抗炎症鎮痛薬などはNa+チャネルが開いたりK+チャネルが閉じる原因となるプロスタグランジンEの産生を抑制し、局所麻酔薬は膜電位上昇後に開く電位依存性Na+チャネルを直接閉じる
→ 炎症があり痛いときは自由神経終末で膜電位が上昇しプロスタグランジンEなどの発痛増強物質によりK+の流出が低下している=治療として膜電位上昇を抑えて元に戻すことが必要
→ 非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)がプロスタグランジンEを抑制することで膜電位が下がり鎮痛に効果がある
●自由神経終末はどこに?
皮膚には触覚・温冷覚・痛覚などの感知機能が備わっており、痛みを感知する神経終末は皮膚の表皮と真皮浅層に位置している。
真皮深層には痛みの神経終末は存在せず、火傷などでは傷が深いより浅いほうが痛い。
皮膚の構造を忘れた方は”こちら”で復習を!
表皮には血管がないが真皮には血管があるため侵害刺激による出血を防ぐ(真皮の損傷を防ぐ)にはこの表層部に痛みを感じる自由神経終末があることは傷が浅い段階で防ぐことができるのですごく理にかなった構造になっている。
●おさらいを兼ねて治療としての観点から
痛みを発生(スタート)させないために、、、
- 侵害刺激を避ける = まずは予防
- 侵害刺激の強さを抑える = 冷却や鎮痛薬などで発痛物質の産生を抑える
- 起動電位を発生しにくくする = 発痛物質産生を抑えてNa+の流入やK+の溜めを防ぎ起動電位を発生させない
- 起動電位が発生しても活動電位を発生させない = 局所麻酔薬はこの電位依存性Na+チャネルにフタをする
- 活動電位が発生しても伝導しないようにする = 上行する神経線維の途中に局所麻酔薬を注入
このように、痛みを伝導する神経線維のスタートのどこかで、脳にたどり着かないようにブロックできれば痛みに対する治療が可能と考えられます。
少し専門用語などが多く難しくなりましたが、生理学の教科書などで用語を拾いつつイメージができれば痛みの出発地点がなんとなく見えてきて、どこでブロックすれば伝導を防ぎ鎮痛できるのか?痛みの正体が見えてくればアプローチも見えてきます。
次回は、トレーナーや医療従事者でなくてもよく聞く”炎症”という状態に関しての記事をup予定です。
では、この辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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