チーム専属のトレーナーとして活動しております、中谷大志(AT・SC・鍼灸師)です。
私の Instagram のDMにて、某強豪高校野球部の指導者の方からご質問を頂いたので、せっかくなのでブログを通じてお答えさせて頂きたいと思います。
ご質問いただいた内容としては、、、
- 緊急事態宣言により部活動が制限されている
- 現在は自主練習という対応をとっている
- 秋に向けてスタートしていた時期で怪我やパフォーマンス低下を防ぎたい
- 怪我予防、パフォーマンス向上のためのウォーミングアップの構築方法が知りたい
こういった熱心な指導者の方の元で野球できる高校生達はすごく幸せですね!
学生の部活動やトレーナーが帯同していないチームだと、コーチや学生コーチがウォーミングアップを仕切ることは結構あるかと思います。
そんな方々にとって少しでも「気づき」になれば幸いです。
早速ですが、内容に入っていきたいと思います。
スポーツをしている人はもちろんの事、していない人も久しぶりに運動をする時など、少し体操してみたりや軽めに動いてみたり”準備”をすると思います。
そもそも、ウォーミングアップとは?
そうです、”準備”です!
もう少し、しっかり言うと、
「その試合(運動)に向けて良いパフォーマンスを発揮するために行う、”心身の事前準備”」です。
ウォーミングアップを行う目的は?
・パフォーマンスの向上
・トレーニング(練習)の効率化
・怪我(外傷、障害)の予防
→これらが、主に目的として挙げられます。
ウォーミングアップには大きく分けて以下の2種類があります。
「一般的ウォーミングアップ」
- 筋肉の温度を適切なところまで上げ適応能力を高める
- 呼吸や循環機能の適応を円滑にさせる
- 神経の伝達速度を高める
- 筋・腱・関節の柔軟性を高める
- 集中力を高める(心理面)
などを行うウォーミングアップのこと。
「専門的ウォーミングアップ」
- 各競技動作への導入となる動きを行う
野球であれば、キャッチボールやスイング、トスバッティングなどを行うウォーミングアップのこと。
チームトレーナーがデザインするのは主に「一般的ウォーミングアップ」です。
上記に挙げた「一般的ウォーミングアップ」の”1〜5”のウォーミングアップの目的を達成するために必要な反応を引き起こすために「何を」「どれだけ」実施するか?
ここが、プログラムをデザインする上で悩ましいところではないでしょうか?
まず、シンプルなところからいきましょう!
「筋肉の温度を上げる」ということ
筋肉の温度(筋温)が上昇することによって身体にどういった反応があるか?を理解することが必要です。
筋温が上がることで得られる効果
・筋肉内のカルシウムイオン(筋肉の収縮に関わる)が活性化し、筋肉の粘性が低下する
→ その結果として筋力の発揮がスムーズになる
・筋温の上昇で体温が上がり、関節内の潤滑油(滑液)の分泌が高まり関節の動きがスムーズになる
→ 関節がゴリゴリなって詰まる感覚や軽く痛みがあるような状態でも、温まってくることでそれが改善されたような体験はないですか?
それでも痛みを伴うゴリゴリなのであれば何かしらの損傷があるかも知れないので一度病院受診した方がいいかも?^^;
・ 神経系(敏捷性)パフォーマンスの向上
→ 筋温が上昇した方がステッピング動作の回数などが上がる
・ハイパワー発揮の向上
→ 上記3点の反応も相まって筋温が上昇した方がスクワットジャンプのようなハイパワーの数値が向上する
どれぐらい温めれば良いのか?
・筋温が「38℃」程度が良いと言われてる
→ 筋温上昇のメリットが得られるのは低すぎても高すぎてもダメだということです
通常が35℃ぐらいなので約3℃上昇させることがベストです。
かといってグランドで筋温を測るのは現実的ではないです。
参考としてランニング(最大酸素摂取量の65〜75%:走りながら会話は少しきついぐらい?の強度)で
・”夏場”の暑熱環境なら10分
・”冬場”の寒冷環境なら20分
ぐらいが、筋温 約3℃上昇の目安といわれています。
気温、湿度、屋内、屋外などの環境に応じてウォーミングアップの時間的な長さを決める理由のひとつになります。
ただ「暑いからちょっとで良い」「寒いからゆっくりやる」と感覚でなんとなく実施するのと理解して取り組むのでは ”同じ時間の過ごし方に違いが生まれる” と思います。
少し話はそれますが、、
専門学生時代の実業団アメフトチームのインターン中にオフェンスライン(120kgぐらいあるでかい人)の選手が、
「試合前のウォーミングアップで身体を温めるのは疲れるし、お風呂にゆっくり浸かって身体温めても一緒やん」
と愚痴?をこぼしていたのを覚えています。大きい身体を動かすエネルギーはできるだけ温存したいのでしょう。笑
確かに、お風呂やサウナ、ホットパックなどで筋温が上昇さえすれば”何もしないよりは”上記のような効果は引き出せます。
ただし、そういった“受動的”(受け身)な方法と、“能動的”(自発)な方法の方が得られる効果は高いです。
→ 下半身や腰部に故障があって動きの制限がある際や、動く前に不安な箇所がある際は、
受動的ウォーミングアップから能動的ウォーミングアップへ移行するという応用もあります。
そういった得られる効果を理解しておけば、両者の長所を上手く生かして現場で対応できると感じます。
これまでは、筋温をいかに上げるか、どのぐらい上げるか、どのぐらい時間がかかるか?
という点にフォーカスしてきました。
「ウォーミングアップ=身体を温めること」といった概念から少し深掘りするだけでもウォーミングアップをデザインするうえで”見え方”が変わってくると思います。
ただし、筋温を上げることだけでは「最高のパフォーマンスをする事前準備」とはいえません。
ここからがウォーミングアップの面白い?ところだと思います。
・呼吸、循環機能へのアプローチ
徐々に運動強度を高めるようなウォーミングアップをすることにより、身体に取り入れる酸素の利用効率が高まる
=エネルギー効率が上がる
→これを急激に強度を上げるとその後に強い疲労感を覚えたり、循環器系への負担が大きくなるので逆効果になってしまわないように注意が必要です!
・柔軟性、関節可動域の向上
もっともポピュラーな方法と言ってもいい「ストレッチ」があります。
ストレッチといっても様々な方法があり、これら全てを説明すると長くなるのでここでは割愛しますが、
「どういった部位」を「どういった方法」のストレッチで効果を得られるかは深掘りする必要があります。
その競技、対象年齢、与えられたスペース、時間、といった要因も絡んでくるところです。
(例:野球であれば、肩周り・股関節周りを中心に行い全身が連動していくような動きを伴うストレッチに移行していくなど)
この2点の効果を得るためには、先程のフットボール選手がボヤいた例のように「温まるだけ」では事前準備として十分ではないということが分かります。
筋温が上がることで得られる効果にプラスして競技をするうえで必要な方法を選択していくことが必要です。
もうひとつ、個人的に拘っていることがあります。
それは、『目的とする競技で行う運動強度と同等の強度を最低1回だけでも出しておくこと』
「スピードリハーサル」と呼ばれる方法です。
これは、ウォーミングアップの終盤に必ず取り入れるようにしています。
最大の理由は「怪我予防」です。
怪我をする時(特に筋系の怪我)は、身体が経験していない未知の領域で力が発揮された時が多いです。
”予想(準備)できていない強度での力発揮” や、”予想(準備)できていない方向への力発揮” が怪我の要因となります。
ウォーミングアップで本来持ってる力の60%(いわゆる手抜き)しか発揮せずに、試合で100%を発揮すれば40%のギャップが生まれてしまうということです。危険なのはイメージできますよね?^^;
それも含めて、ウォーミングアップの種目や時間、強度、それらを組み合わせてスムーズな流れをデザインすることで、
なんとなく実施する「ただの身体慣らしの運動」の時間から
「パフォーマンスを出す、上げるための準備」としての貴重な時間としての意識づけがチームとしてできればワンランク上のチームとして成長できるのではないかと思います。
次回は、この「理論編」を踏まえた上で実際の現場で取り組んでいることや、トレーナーとして意識していること、選手に対して意識してもらっていることなどをお伝えさせてもらおうかな〜と考えています。
まずは、自分の頭の中でのウォーミングアップのデザインを書き出したり、実際にやってみてかかる時間や身体の反応を実感してみて下さい(^^)
あくまでも、実施するのはアスリートという事をお忘れなく。
理論のみが先行しすぎたエゴの押しつけは危険です。ええ塩梅を(^。^)
【参考書籍】
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“「ウォーミングアップのデザイン」〜チームトレーナーが意識していること〜(理論編)” に1件のコメントがあります