どうも、トレーナーの中谷大志です。
アメフト、レスリング、ボクシンング、体操と様々なスポーツの闇の部分が日々ニュースになり、よくない形でスポーツの在り方が注目されているこの頃。
私たちトレーナーも選手や指導者を相手に行う仕事ですので、他人事ではなく自らの働く環境をもう一度確認するとともに選手への接し方、指導者への接し方に注意しなければなりません。
実際に体操競技の問題の一部にもコーチによるトレーナーとの無断契約などが出ていました。そのチームやトレーナーとしての働き方によって多少の違いはありますが、トレーナーは指導者と選手の間にいることが多く、どちら側の意見も聞き、両方の立場を尊重した上での言動を要求されることが多いと感じます。
非常に難しいことではありますが、そこで、どっちつかずな意見を出すよりもトレーナーとしての意見を正直にぶつけることがこの職業の存在価値ややりがいにも繋がると思います。
その意見を発することは、緊張もすれば、責任感ものしかかります。そこで必要になるのが科学的な根拠や知識であり、それを分かりやすく現実的に伝えられるプレゼン能力です。
もし、チームで”良くないこと”が起きている時にトレーナーとしてどうすべきか?
その辺りの準備も、チームトレーナーとしての役割のひとつではないでしょうか。
さて、今回は正しい傷の処置について。
どのスポーツでも処置をすることが多いであろう擦過傷(すり傷)を中心に2回に分けてまとめていきます。
擦過傷は、強い皮膚の摩擦により生じ、傷はそれほど深くはないが広範囲で“表皮”が欠損することで、痛みが強く透明な組織液が滲み出てくるような状態が多いです。
この傷の治癒を促すこと、要するに安全に皮膚が再生しやすい環境を作ってあげることが”正しい傷の処置”といえるでしょう。
その処置を間違えないためには、トレーナー、医療従事者、その他指導者の方は、まず皮膚の構造と役割を理解する必要があります。
傷の処置の質をあげるための準備段階として、皮膚の構造を頭に入れましょう!
皮膚は体の最外層にあり、主に2つの役割をする臓器です。
- 外界からの攻撃から守る
- 体の水分を失わないように守る
もう少し細かい皮膚の働きとして、、、
- クッションとなり外力を防ぐ
- 肥厚することで慢性的な刺激から守る
- 水分、病原菌、有害物質の侵入を防ぐ
- 体液の不必要な損失を防ぐ
- 体温調節作用(これは熱中症の記事で詳しく説明しています)
- 知覚、分泌、呼吸、吸収作用
- 抗体産生機能を有する
など、これらの働きをみればスポーツ時のコンディションと皮膚のコンディションは関連が強いと考えられます。
それでは、皮膚の構造について学んでいきましょう。
皮膚は外側から”角層” ”表皮” ”真皮” ”皮下組織” で構成されています。
その他に皮膚のアクセサリーとして毛、汗腺、皮脂腺、爪などが存在します。
上記の皮膚の働き、ほとんどが薄い最外層にある”角層”の働きです
ここからは少し専門的になりますが、各々の役割をまとめていきます。
「角層」
・イメージは日焼け後に剥けてくる薄い皮、この薄い皮1枚で体の水分バランスが保たれている
・角層の細胞は、外側に角化封筒に内張りされた細胞膜の内部にケラチンと基質タンパクを含む頑丈な構造になっている
→これら角層細胞がレンガのように積み重なり体を守る
→体水分がタンパクの膜を通り抜けて失われないようにそのレンガの隙間を細胞間脂質が埋めている
この脂質は、”スフィンゴ糖脂質” ”コレステロール” ”脂肪酸” が1分子ずつ集まり構成されており、スフィンゴ糖脂質の主成分「セラミド」は外界からの刺激から守るバリア機能にとって大切な成分です。
・角層細胞の厚さは部位によって異なる
- 外陰部:5~6層
- まぶた:7~8層
- 体のほとんど:14~15層
- 手のひら・足裏:数十層
- 踵:100層以上
・角層細胞にはすぐに水分を吸収してそれをゆっくりと放出する性質がある
例として、、、
→入浴後しっとりした肌が30分後には元の肌に戻る
→手足など厚い角層ではプールのあとなど多くの水分を吸収してしわしわになる
など。
・外傷によって角層が剥がれ落ち失われると露出した角化細胞(ケラチノサイト)は上記したバリア機能の主役となる細胞間脂質を産生する
→この脂質と積み重なった角化細胞(ケラチノサイト)によって2日ほどで痂皮(カサブタ)ができる=これは急造のバリアといわれる
急造のバリア:カサブタは皮膚のバリア機能の80%を回復させるために作られる
残りの20%は回復するのに約2週間かかる
・角質を失った皮膚を水分の蒸発を防ぐ密封性の膜で覆っておくと急いでバリアを作る必要がなくなりカサブタの出来が遅くなってキズの治癒も遅くなる
→これが、浅い傷の場合は開放しておいた方が良い!といえる理由です。
「表皮」
・主な役割は”角層”を作ること
・表皮の95%は角化細胞(ケラチノサイト)でこれが分裂を繰り返して最後にできるのが角層
・残り5%は2種類の細胞からなる
→メラノサイト:表皮の下にあり紫外線が体内に侵入するのを防ぐ
→ランゲルハンス細胞:体外から角層を抜けて侵入する物質情報をリンパ球(免疫担当)に伝える
「真皮」
・コラーゲンやエラスチンなどの線維組織からできており、この線維の間を間質成分が埋める
→間質成分の主成分はヒアルロン酸で皮膚内部に水分子を結びつけ皮膚に張りを保つ
・表皮と真皮の境界は基底膜と呼ばれる特殊構造になっており、表皮の細胞は真皮の血管から滲み出る組織液によって養われている
・真皮の奥は「皮下組織」(皮下脂肪)となる
少し退屈な内容となりましたが、傷の処置に関してスポーツ現場に携わるプロとして恥ずかしくないようにまずは皮膚の構造をイメージすることが大切です。
例えば「このスクワットをすれば全身に効果がある」といった検索すればいくらでも出てくる方法論のみの知識よりも、このスクワットをすることによって「どこの関節がどう動き、この筋肉がこの時に刺激されてどういった働きをするからココとココが鍛えられて効果的である」と方法論の裏側にしっかりとした知識をもつことによって「もう少し強度をあげるor下げるには?」「違う部位をメインに働かせるには?」「競技の動作に近づけるには?」などの応用が可能になると思います。
傷の処置に関しても同じだと感じます。
この皮膚の構造や細胞の役割を少しでもイメージができれば、次回up予定の傷の処置の方法論に関してもその理解が深まり、実際に目の前で起きている皮膚の外傷(擦り傷など)に対してのその傷がどの構造の部分にあり、それに応じた処置が可能になります。
方法論が簡単に手に入る時代だからこそ、方法論の裏側を説明できることが専門家としての価値だと自らにプレッシャーをかけ日々学び続けたいと思います。
では、この辺で。