どうも、トレーナーの中谷大志です。
前回の記事「今こそ学ぶべき熱中症という病気」で熱中症とはどういった症状でどう対処すれば良いのかを、自らの想いとスポーツ現場の現状を含めて解説しました。
今回は実施している水分補給の方法についての内容を予定していましたが、、、
その前にヒトの体温調節機能について解説しようと思います。
暑熱環境の中でヒトがどのようにして身体に溜まった熱を放散しているのか?
この知識が少しでもあれば、前回の記事で紹介した対処方法の内容の意味が理解でき熱中症に対してより良く柔軟な対応が出来ると思います。
何事もそうですが、指示されたことをこなすだけの作業とその意味を理解して行う作業ではイレギュラーがあった時の対応や”気づき力”がまるで違います。
少し細かく、難しい内容もあるかと思いますが分かりやすく説明するよう努力します(^_^;)
当たり前ですが、運動をする(筋肉を動かす)にはエネルギーが必要で人間のエネルギーは主に「糖質」や「脂質」といったものが代謝(利用)され発揮します。
実際に、運動のエネルギーとして使われているのは20%程度で残りの80%は熱に変換されます。
80%も熱に変換されているのですから、もちろん体温が上がります。
深部体温が40℃になると疲労困憊して運動できなくなる=危機的限界レベル(臨海体温)に達します。
もしも、運動を続け体温が放散されずに43℃程度まで上がると死に至ります。
そのためにヒトは身体の熱を、、、
- 放射 = 身体と接触していない皮膚温よりも低い物体へ熱が伝達されること
(例:散水などで地面を冷やす、木陰で周りの物体の温度が低い場所など)
- 伝導・対流 = 身体と接触している皮膚温よりも低い物質に熱が流れること
(例:クーラーなどの冷たい空気や風、氷などに触れるなど)
- 蒸発 = 水分が体表面から蒸発する際の気化熱が身体から奪われる
(例:発汗や水で体表面を濡らして風を当てるなど)
- 皮膚血管の拡張 = 皮膚面に熱を持った血液を集め、皮膚からの放熱を増やす
などの機能により、約25℃の気温では「放射=50%」「伝導・対流=30%」「蒸発=20%」程度の割合で放散しています。
しかし、気温が35℃など体温と同程度になると、「放射」や「伝導・対流」は体温より対象物が低いからこそ利用できる機能のため、無効になり、熱放散の機能は「蒸発」が 100% となります。
また、最近の37℃〜40℃といった体温以上の酷暑や極暑と呼ばれる環境では「放射」や「伝導・対流」機能は体温の方が低い温度のためヒトの身体に熱が流れてくることになり体温がさらに上昇します。
このような、条件から暑熱環境でもっとも重要な体温調節機能は「発汗を利用した蒸発」であるといえるでしょう。
暑熱環境で運動を行うとまず身体の反応として行われるのが、、
「皮膚血管を拡張し皮膚への血液量を増やすこと 」
→皮膚は外気と直接触れるため深部を通り熱をもった血液を皮膚血管に集め熱を発散する
※暑熱環境での運動は快適環境での運動に比べ心拍数が増加するのは、本来骨格筋に送られるべき血液が熱放散のために皮膚に送られるので、その分の足りない血液を送り出そうとするため
このような皮膚血流量増大でも体温上昇が抑えらえない場合に”発汗”が始まる。
”汗”の役割として、、、
体表面に水分を出し、それが蒸発する際に熱を奪う「気化熱」を利用することで体熱の放散を促すこと。
水は常温から体温付近の温度で気化すると約58kcalの熱を奪います。これは、体重70kgの人が100gのの汗を蒸発できれば1℃低下する計算になります。
ここで、注意が必要なのは、よく真夏のスポーツ現場で見る「流れ落ちる汗」です。
流れ落ちてしまうということは蒸発の機能が使えておらず、先ほどの58kcalの熱は体表面から奪えておらず、体温の低下効果が望めません。このような汗を「無効発汗」といい、蒸発して体温を低下することができた汗は「有効発汗」といいます。
汗をたくさんかいても体温が数十℃下がってしまうことがないのは、「無効発汗」が多くなっているからといえる。
暑熱環境で特に湿度が75%を超えるような、いわゆる蒸し暑い環境では、蒸発による熱放散が妨げられ「無効発汗」が多くなります。
一見、曇りで太陽が出ていない環境で「今日は大丈夫だ」と安心しても湿度が高いと熱中症が多発するのはこのためです。お年寄りの方が室内で起こしてしまう熱中症もこれが多いと思います。
蒸発が上手く行かず、ベタベタするような汗を経験したことがあると思いますが、このような場合はタオルで拭いたり風のあるところにいくなど蒸発の起きやすい環境を作ることで熱放散が促せると考えられます。
要するに、暑熱環境での体温調節は、、、
- 皮膚血流量の増大
- 発汗作用
この2点がヒトの生体機能を維持するために必要な体温調節機能となります。
ということは、体内が脱水状態になると、ヒトの身体は水分を節約しようとするため発汗の抑制が起きてしまいます。
すると、唯一の体熱放散機能がストップしてしまいどんどん体温が上がり熱中症を発症してしまうという悪循環に陥ります。
そのような理由から熱中症対策には『とにかく水分を摂れ!』とよくいわれるのです。
水分が絶対に必要な根拠として上記に述べた、『暑熱環境でのヒトの体温調節機能「有効発汗」』を知っている指導者と、ただなんとなく飲ませることを促しているだけの指導者では行動の質が変わってくると思います。
繰り返しになりますが、いかに汗を蒸発させて体温を下げるかが重要です。
これが上手く行えず、熱中症の症状がみられた際に、
「氷水のタオルで拭いて団扇で仰ぐこと」「涼しい環境で衣服を緩めて水分を摂ること」「こまめにウェアを着替えること」
など、どのようにして「有効発汗」を促す環境を作るかが前回の記事「今こそ学ぶべき熱中症という病気」で紹介した熱中症の対処の根底になっているのです。
今回は少し知識的なことが多い内容になりましたが、スポーツ現場に携わっている人は特に頭に入れておいていただきたい内容です。1番は暑熱環境を避けることで間違いないのですが、なかなか現実は厳しい状況もあります。
実際、私の帯同チームもどんどん8月に練習試合の予定が組まれ、連日のニュースがまるで他人事かのように、ほとんどが13:00試合開始で、試合時間は平均3時間程度なので13:00〜16:00といった一番危険な時間帯に行われることになります(>_<)
トレーナーという立場からチーム関係者に熱中症の危険性と試合時間の午前中への変更を訴えている最中です。
長くなりましたが、ヒトの体温調節において『体内の水分が大切』=『水分補給が大切』と理解できたところでようやく次回、水分補給に関して”何をどれぐらい飲めば良いか”などトレーナーとしての日々の取り組みを含めてupしたいと思います。
絶対に防げる熱中症で重症患者がひとりでも減りますように、出ませんように。
この記事が少しでも誰かに役立つことを願っております。
では、この辺で。