スポーツ指導者が強化練習(追い込み期間)をやりすぎてしまう理由は”超回復理論”の間違い? 【参考書籍紹介あり】

さいたま市で、チーム専属の鍼灸師アスレティックトレーナー・コンディショニング担当をしています、中谷大志です。

目標とする試合まで2週間を切り、チームにも選手個人にも緊張感が生まれ始めているように感じます。

今回のテーマは「強化練習(追い込み期間)」に関して。

体育会系の運動部出身の方なら大会の数週間前などに、思い出すだけで心拍数が上がりそうな練習、いわゆる「追い込み」を経験したことがあると思います。

あれの良し悪しを判断するのではなく、どのような意図をもってその練習を取り組んでいるか?が示されていることが重要に感じます。

高校野球であれば7月の甲子園予選前の「6月=地獄」というなんとなく伝統行事のような感覚でやってしまっている指導者やトレーナーの方も多いのではないでしょうか。

私も高校野球を経験しましたが、ざっくり大会1週間ぐらい前までハードな走り込みやバットの振り込みなどの「追いこみ練習」行われ、それ以降は「調整練習」という一気に軽めの練習になるといった流れで大会に挑んでいました。

「今日から調整に入るらしい!!」とか言ってみんなで喜んでいました^^;

大学や社会人野球のカテゴリでも、その他スポーツでも、ここにピークを持っていきたいという目標設定があるスポーツでは大概このような方法を採用しているということを耳にします。

目標とする時期に最高の状態に持っていことを”ピーキング”と言います。

果たして、その背景にはどのような理論があるのか?

指導者、トレーナーの方は説明できますか?

「俺たちもそうやってきたから、お前らもやれ」

経験則は貴重ですがそれがベースになるのは、非常に危険です。

例えば、何も考えずひたすらに量をこなす猛練習をして上手くなった選手がいたとしても、その選手がその練習に耐えられる「強靭なフィジカル」がたまたまあって、上手くなる要素の足りないピースがたまたま「猛練習」だっただけの可能性が高いと思います。

全員にこういった方法を当てはめてしまうことで、それに耐えられるひと握りの人間だけが成長する「ふるい」にかけるような仕組みが伝統として出来上がっている印象です。

野球でいえば、競技人口が圧倒的に減少し、国民的スポーツと言いながら、存続の危機でもあり、ひと昔前の野球人口が多かった時代のように「ふるい」にかけている場合ではないように思います。

大幅に話がそれましたが、本題に戻ります。(^_^;)

伝統行事のように強化練習期間があるのは、スポーツ指導者、コンディショニングを担当するトレーナーの頭の中に「超回復理論」があるためだと思います。

超回復理論を相当ざっくり説明すると、

「追い込んで一時的にコンディション(身体の状態)を落とし回復するとそれ以上のコンディション(身体の状態)が得られる」

といったところでしょうか?一般の方にとってはこれぐらいの感覚だと思います。

この”超回復理論”にも、もっと科学的な説明がつきます、、、

ハンスセリエ氏が提唱したGAS(汎適応症候群)に基づき身体に与えられるストレスに対しての反応を利用した超回復理論がトレーニングに応用されています。

上手く利用できれば、この理論でもある程度のピーキングは可能だと思います。(ある程度は、、)

しかし、この”超回復理論”という言葉がひとり歩きしてスポーツ界に広まっているのか、

「コンディション(身体の状態)が落ちるぐらいまで一度、追い込まなければ上がってこない」

と考えてしまっている指導者が多い傾向にあります。

”超回復理論”はそもそも、ひとつの刺激に対して身体が適応して回復してきたところにもう一度刺激を与えて、それをどんどんプラス要素を高めていく”回復ありき”の方法であって、

よくある例のように、数週間まとめて一気に追い込んでしまうと適応前身体がマイナスの状態で新たな刺激が入りマイナスが重なり、コンディションがどんどん低下していきます

大会前の数週間休めばその疲労は抜けるかもしれませんが、その期間は「調整」と呼ばれる軽めの練習で新たな刺激は入らず、疲労は抜けるがプラスの要素も獲得できない期間になります。=休みすぎる可能性もあるという事。

すごく疲れた状態から練習やトレーニングメニューが軽くなり、感覚的に身体が動くように感じるかもしれませんが、「調整期間」でプラス要素も低下しているので”追い込み期間前のコンディションに戻っただけ”の可能性が高いと思います。

そもそも、、

冷静に考えると1週間や2週間そこらで技術が強化できるほどスポーツは簡単ではないはずです。特に競技レベルが高くなればなるほど。

「いやいや、体力強化も含んでるから!」

という意見もありそうですが、技術も体力も数ヶ月もっと言えば数年単位でコツコツ積み上げて得られるものだと思います。

「春先のキャンプで1シーズン(野球の場合約10ヶ月程度)の体力を!」

とニュースなどでも取り上げられますが、残念ながら貯筋は出来ません。。

まず、体力強化なのか、技術強化なのかをしっかり分けなければ ”どっちつかずの練習、トレーニング” になってしまいます。

技術を得るために、「たくさんバットを振る」「たくさんボールを投げる」その結果として”体力がついた”ならばOKだと思います。(エリートアスリートクラスでこの方法で体力強化ができてしまうとは思いませんが、、、)

体力をつけるために「たくさんバットを振る」「たくさんボールを投げる」だともっと効率よく体力の付け方はありますし、そのために数をこなすのは怪我のリスクも否めません。

なんのためにやるのか?といった「目的」がズレないようしなければなりません。

(内容は違えど、前回記事のマインドに通ずるものがありそうです、、)

まわりくどくなっていますが、私が現在のチームで”ピーキング”を行う際には「フィットネス-疲労理論」を採用しています。

これは、前述した「超回復理論」がひとつの刺激に対して、一時的にコンディションが低下というマイナス要素が生じ、その回復を見極めてもう一度刺激を入れるという理論と違い、

ひとつの刺激にはフィットネス(体力向上)というプラス要素疲労というマイナス要素が生じ、その両方の差がコンディションに影響するという考え方です。

トレーニング・練習直後は疲労というマイナス要素が強く、獲得したフィットネスというプラス要素を上回っているため一時的にコンディションは低下します。

ここだけ見れば、超回復理論と同じですが考える上での過程が違います。

”フィットネス-疲労理論”には、法則があり、

プラス要素の”フィットネス”

『直後の変化量は小さく、変化の速度はゆっくり』という考えがあります。

法則というと胡散臭いですが、1回や2回練習やトレーニングをしただけでいきなり上手くなったり筋肉量が大幅に上がったりすることはなく、フィットネスはコツコツ積み重ねて向上するといった”当たり前”ことです。

マイナス要素の”疲労”

『直後の変化量は大きく、変化の速度も早い』という考え方があります。

これも、1回の練習やトレーニングでしっかり疲れるけど、1日や2日休んだり強度を下げれば回復するといった”当たり前”ことです。

この2つの要素が1回の練習やトレーニング刺激で加わり両者の変化量や速度の特徴を理解してその差からコンディションを考えメニューを計画するのが

「フィットネス-疲労理論」に基づいたピーキングです。

一時的に変化速度の速いマイナス要素が上回りますが疲労が抜ける変化速度もプラス要素より早いため差が0になり、プラス要素の変化速度はゆっくりなので、それ以降には両者の差がプラスになる、すなわちコンディションが上がるタイミングが現れます。

例えば、1回の刺激で5のプラス要素10のマイナス要素を得たとします。

両者の差から直後のコンディションは「-5」です。

フィットネスは1ずつ、疲労は3ずつ低下すると仮定します。

  • 翌日には変化し ”4のプラス要素”と”7のマイナス要素”で両者の差は「-3」
  • 翌々日には”3のプラス要素”と”4のマイナス要素”で両者の差は「-1」
  • 3日後には”2のプラス要素”と”1のマイナス要素”で両者の差は「+1」
  • 5日後には”0のプラス要素”と”0のマイナス要素”で両者の差は「0」=トレーニング前の状態に戻る

単純計算ですが、3日後にコンディションはトレーニング前より+1の状態に上がり、5日後にはトレーニング前の状態に戻ります。

この場合では、3日〜4日後のタイミングでもう1度刺激を入れ、この繰り返しで中長期的なコンディションの向上を図るのが理論上良さそうです。

もちろん、実際は技術練習があり、それを補うウエイトトレーニングがあり、練習試合があり、大会があり、遠征があり、その他コンディショニングメニューがありなどこんなに単純ではありませんが時期やチームのスケジュール、天候などを考慮し目的とする大会に向けて逆算していくために、このような理論に基づいて計画することが必要です。

目標とする期間にピークを持っていく際、選手や指導者を相手に説明できるか、できないかは必ず大切な要素になってくるので私は説明のつきやすい「フィットネス-疲労理論」を採用しています。

よって、前述したような、連日のハードメニューを行うような「強化練習(追い込み期間)」を作ることよってマイナス要素が大きく上回ってしまい下記のようなリスクが生じます。

  • 良いコンディションを獲得するのに何日かかるか計算できない
  • プラスになるまで(疲労が抜けるまで)バットが触れないなど技術練習にも影響してしまう
  • そもそも疲労回復が設定した日に間に合わないリスクがある

つまり、大会前やそういった目標とする試合前にリスクをとってまで強化練習を設けるのではなく、計画的にコツコツ積み重ねていけば、大会前に焦ることなくやるべき事を明確にして挑めるように感じます。

この記事内では、頭の整理もかねて自分の言葉にして説明しましたが、S&Cコーチの河森直紀さんのこの本を参考にさせて頂いております。

試合に向けての調整方法が細かく理論的に書かれていてスポーツ指導者がメニュー作成をする際に必要な知識が非常にわかりやすく紹介されています。


ピーキングのためのテーパリング 狙った試合で最高のパフォーマンスを発揮するために / 河森直紀 【本】

河森さんのブログも無料でこういった記事が読めるのは非常に貴重だと思いますので興味がある方は是非。

では、このあたりで。

最後まで読んで頂きありがとうございました。

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